中国新聞地域ニュース | |||
「鞆の浦」を人類資産WMWに選定 | '01/10/13 | ||
|
|||
![]() ■日本で初、米の財団が発表 米ニューヨークの世界文化遺産財団は十一日午前(日本時間十一日深夜)、中世以来の町並みや港湾施設が残る福山市の「鞆の浦」を、崩壊や消失の危機にひんしている人類遺産「ワールド・モニュメント・ウオッチ(WMW)」の二〇〇二年選定地区に決めたと発表した。日本では初めて。 WMWは一九九五年から二年に一度、世界で百カ所が選定されている。鞆の浦は「広島県と福山市の埋め立て・架橋計画により、町並みや水辺の歴史と文化が脅かされる」が選定理由で、高度経済成長期に開発一辺倒で続けてきた日本の公共事業に対する国際批判の象徴とも言えそうだ。 四回目となった今回の選定には、世界各地から計二百三十六の申請があり、ユネスコ世界遺産の助言機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)メンバーら専門家十人が選考に当たった。 鞆の浦の選定理由について「山と海の間の劇的に小さい土地に位置する鞆には、町家や寺社が建ち並び、その港湾施設は、海上交通の歴史を気付かせてくれる窓である」と歴史、文化的意義を強調。「現代世界の要求にこたえてさまざまなものを失った日本の他の町とは異なる鞆が、埋め立て・架橋計画によって脅かされている」としている。 世界文化遺産財団は、米国で文化、歴史遺産の保護、保全に取り組んできた草分け的な団体で、米国のカード会社アメリカン・エキスプレスがスポンサー。WMWの選定は、遺産の保全に向けた注意喚起が目的で、財団が保全への経済的支援もする。 地元鞆町のまちづくりグループ「鞆の浦・海の子」(松居秀子代表)が選定申請していた。 ■広島県は埋め立てなど計画推進へ 鞆の浦のWMW選定について、鞆港の一部を埋め立て、架橋建設を計画している広島県空港港湾局は「地元の理解を得ながら計画を進める」と従来の方針を保っている。 空港港湾局は、埋め立て・架橋建設へ向け地元権利者の同意を得る交渉に入っている。空港港湾局は「確認中だが、選定により計画が制約を受けるとは考えていない」との認識す。地元交渉を続け、同意が得られれば予定通り公有水面埋め立ての申請をする考えだ。 一方、県教委文化課は鞆町の一部地区の街並み保存に向け、福山市教委と協議中。江戸時代末期の家並みが残る地区を対象に、文化庁の重要伝統的建造物群の早期選定を目指す。その矢先のWMW選定に、文化課は「国連機関や文化庁とは関係がなく、民間財団の選定と聞いている。詳細が分からない今の段階では、コメントできない」と話している。 また、地元福山市の三好章市長は「注目を浴びるのはありがたいが、歴史と景観だけを大事にして、住民が生活できるわけではない。長年、埋め立て・架橋をめぐる議論を続けてきた経過があり、県と協力して事業を進めていくことに変わりはない」と話している。
中世以降の町並みや港湾施設が残る福山市の港町「鞆の浦」が、二〇〇二年版のワールド・モニュメント・ウオッチ(WMW)に選定されたのは、二つの意味を持つ。世界的にも鞆の浦の歴史的価値が認められたこと。そして、日本の公共事業がそのあり方に疑問を投げ掛けられたことである。選定を手放しで喜ぶわけにはいかない。 各国の考古学や歴史の専門家ともにWMWの十人の選考委員に加わった東京大の西村幸夫教授(都市計画)は、今回の選考過程をこう振り返る。「鞆の選定は、行政計画(公共事業)と真っ向から対立する。そうしたあつれきを恐れず、大切な財産を守るという信念で選考委員の議論が進んだ。非常に感概深かった。鞆の価値は高く評価されていた」 今春まで東京大大学院に在籍し、今回の選定申請をサポートした千葉県在住の会社員今川俊一さん(25)は「世界遺産がその価値が『スゴイ』から選ばれるとすれば、鞆は『ヤバイ』からWMWに選ばれた。埋め立て・架橋計画が、鞆の浦にとって決して良い方向ではなく、何らかの解決方法を地元が考えるべきだと突き付けられた」と解説する。 その埋め立て・架橋計画を進める県や市の関係者。WMW選定の報に、事業見直しは口にしなかった。 とはいえ、WMWにはこれまで、世界遺産でもあるイタリア・ナポリのポンペイ遺跡やエジプト・ルクソールの王家の谷などが選ばれている。瀬戸内海に面した人口六千人のまちは今回、そうした世界に名だたるモニュメントと肩を並べた。その意義を踏まえ、公共事業を進める際の「ものさし」が地域の歴史の重みをきちんと量っているのかどうか、あらためて見つめ直したい。(荒木敦子) 【写真説明】中世以降の町並みや港湾施設が残り、危機にひんする人類遺産のWNWに選ばれた福山市鞆の浦地区 |