広島県知事 藤田雄山 殿

鞆の浦が抱えているたくさんの課題について,常々気にとめていただき厚くお礼申し上げます。鞆に住む私たちは,知事の英断を強く期待しておりました。

ところが,10月8日の新聞には「大多数の鞆の住民」が願っている埋立架橋計画だから,何が何でも実現したいという知事のコメントが載っていました。9月4日の福山市長との会談から1ヶ月余り,発言の内容が全く変わってしまったのはなぜでしょうか。鞆の一部を代表する人たちからの要望書が届いたからでしょうか。

知事は,「大多数の鞆の住民」が願っている埋立架橋と思い込んでおられるようですが,実際に鞆においでになって住民の声を聞かれたことがあるのでしょうか。

埋立架橋賛成の署名がありますが,あの署名がどんな手法でとられたかご存知ですか。町内会長が各家をまわって,とにかく判を押してくれと,有無を言わさず推させた署名なのです。だから,少数の本当にこれはおかしいと感じた人間は,判を押すことを拒んだのです。署名の発起人の中には,鞆医師会という架空の団体も入っていました。だいたい,町内会連絡協議会も反対者を無視して,一部幹部で強行しているのです。

中国新聞のアンケートもありました。80%の賛成というのも,よく見れば,電話で質問を受けた50%以上の人が,回答を拒否しているのです。残りの40数%の中の80%が賛成という結果です。ということは,はっきり埋立架橋に賛成している人は30数%ということになります。

知事は,埋立架橋を大多数の鞆の住民が願っていると,福山市長からお聞きになって,それを鵜呑みにされているのでしょうか。同様に,県道が「慢性的な渋滞」で消防車も救急車も入れないと耳にされていることと思いますが,実際は渋滞などほとんどありません。県道沿いで商売をしている私が言うのですから間違いありません。

鞆の歴史的な町並みと港湾施設は,日本で唯一セットで残る貴重な文化遺産だと文化庁も認めています。文化庁だけでなく,心ある多くの人たちが,日本の文化遺産を残してほしいと声をあげています。世界遺産文化財団も,危機に瀕した世界遺産のリストに2回続けて登録されました。

鞆のまちづくりは,住民が心をひとつにして鞆の将来を語り合うことから始まります。ところが,埋立架橋が計画されて20年。おかげで鞆の住民は,この20年間,不幸な対立を続けてきました。1ヶ月前には,埋立架橋計画に決着がつき,やっと住民が一つになって,町並み保存をはじめとする鞆のまちづくりのスタートがきれると思っていた矢先,知事の(その直後の市長の記者会見も同様),住民同士の対立をあおる発言です。しかも,行政責任を放棄して,住民をうまく利用するというやり方も,いたずらに住民の対立を深めていくだけです。対立が続く中からは何も生まれません。

日本だけでなく,世界が注目する鞆の歴史的町並みと港湾,特に歴史的な建物は,すでに瀕死の状態で,行政がこれ以上放置すれば,次々と貴重な建物を失ってしまうことになります。そうなれば,国も重伝建地区として認めてはくれないでしょう。それ以上に,広島県も福山市も,日本中から,いや世界から,貴重な文化遺産を守ろうとしなかった責任を問われ,文化度の低さを嘲笑されることになるでしょう。

そうならないためにも,知事の,真の意味の英断を期待します。

この文はインターネットで全国に発信されております。

平成15年10月21日

鞆の浦 澤村猪兵衛



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