提 言
鞆の浦が危ない

 9月2日,三好章福山市長は福山市議会で,20年におよぶ鞆港の埋立架橋論争に終止符を打つことを表明をしました。江戸時代の港の形状を今に伝え,常夜燈・雁木・波止・船番所跡・焚場跡の港湾施設5点セットが,日本で唯一残る貴重な港を守れるという見通しがでてきたのです。まさに,鞆にとって歴史的な日となりました。
ところが,その喜びと安堵の思いも束の間,市長は「埋立架橋と町並み保存はセットであり,一方がだめなら両方止めるしかない」という見解を示しました。
町並み保存は,鞆町民共通の願いであり,高齢化と人口流出に悩む町の活性化の起爆剤として,大きな期待を寄せていました。国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)を目指した動きも平成9年から始まり,われわれ町民と行政が協力しながら町並みの整備を進めてきた矢先のことです。
 鞆には江戸から明治期の建物がたくさんあり,耐用年数をはるかに過ぎて老朽化した建物は,台風や地震のたびに肝を冷やす思いでした。もう限界いう状況を,重伝建になったら修理できるという大きな期待をもって,どうにか守ってきたのです。それを,勝手なセット論で白紙にもどされたのでは,われわれ住民はたまったものではありません。
 行政の言い分はこうです。「町並み保存地区の中央を都市計画道路が通っている。この道路は拡幅計画があるから,計画を実行すれば町並みは壊れてしまう。だから,埋立てて橋を架け,バイパスを通して都市計画道路を外し,重伝建にもっていこうとした。住民のほとんどは賛成しているのに,一部の反対があったから埋立架橋ができず,都市計画道路を外せなくなった。町並み保存ができないのは,反対派住民のせいだ」と。
 しかし,その代替となるバイパスは,埋立架橋計画が出た当初から,トンネル案を行政にも提示してきたのです。ところが,反対派の案は採用できないということか,行政は費用がかかりすぎるという理由で見向きもしなかったし,今も検討さえしようとしません。
 鞆の町並みも港も日本のかけがえのない文化遺産です。1度壊してしまえば2度と元には戻りません。それこそ,セットで残してこそ,日本を代表する港町としての価値を守れるのです。世界的文化遺産を守るのに,経費を惜しむべきではありません。全国の重要遺跡は莫大な経費を使って守られています。
 それをなぜ,セットで壊そうとするのか,おそらくセット,セット(悪いほうの)と言ってきた手前,後に引けない,埋立推進派へも町並み保存だけを進めるとは言えない,つまりメンツを立てなくてはいけない,市長も自分のメンツを立てたい,県も都市計画道路を見直して市長のメンツをつぶせない,もうやくざの世界です。政治的な崇高な判断などどこにもありません。
自分の思い通りにならなくて,カッカきて感情的になっている市長によって,日本を代表する港町の文化遺産が失われようとしているのです。市長が鞆の価値をわかって,本気,鞆の町並みを守ろうという強い気持ちがあれば,行政的な手法はいくらでもあるはずです。それをやらないのは,最初から町並み保存などやる気がなかったとしか考えられません。
 港町鞆は,港を中心にして発展した町です。港と町並みがセットで残ってこそ,世界に誇れる港町なのです。同じセットでも,行政のいうセットとはレベルが違います。
 今,鞆の浦が危ない! 日本の財産である港町鞆を守る闘いの輪を,日本中に広げていきたいと思っています。ご支援をお願いします。

平成15年9月13日
広島県 鞆の浦
澤村猪兵衛 拝


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