関 連 報 道


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イコモス、鞆架橋計画放棄求める '05/10/25

 「世界遺産」候補地の調査に当たる国際記念物遺跡会議(イコモス)は二十四日、中国・西安市で開催された総会で、福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画について、国、広島県、市に同計画の放棄を求める決議を採択したと発表した。

 決議文は、鞆町が「歴史的な港湾都市として特別に重要な価値を持つ」と指摘し、住民団体による古い建物などの修復活動を評価。その上で、県と市が進める同計画を「鞆の浦に不可欠な価値を破壊するもので、実施するべきではない」と強く非難した。

 総会は十七―二十一日、中国・西安市で開かれ、世界約八十五カ国から研究者ら約千人が集まった。国内組織である日本イコモス国内委員会(東京都渋谷区)の鞆をめぐる現状報告などが、決議採択につながった。

 イコモスは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関で国ごとに小委員会を組織。日本イコモス国内委員会のメンバーらは、朝鮮通信使の寄港地だった鞆町を度々、訪問している。


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鞆再び「危機遺産」 米財団、02年に続き選定  '03/9/26

 崩壊や消失の危機にひんする人類遺産「ワールド・モニュメント・ウオッチ(WMW)」の二〇〇四年の選定地区に、福山市鞆町が二十五日、〇二年に続いて再登録された。登録申請した地元の特定非営利活動法人(NPO法人)「鞆まちづくり工房」が同日明らかにした。

 WMWは、米ニューヨークの「世界文化遺産財団」が一九九六年から、二年ごとに世界の百カ所を選んでいる。これまでに登録されたのは延べ四百件。イタリアのポンペイ遺跡、エジプト・ルクソールの王家の谷など世界遺産も含む。日本では鞆だけという。

 まちづくり工房の松居秀子代表は「事業が凍結されたとはいえ、歴史的な港の埋め立て・架橋計画は残る」とし、「海、港、町が調和し、住民の生活や文化が息づいている鞆の危機は去っていない」と理由を説明した。

 WMWに登録されると、協賛する米国のカード会社などの基金から経済的な支援が受けられる。まちづくり工房は八月、鞆に残る坂本龍馬ゆかりの空き家を取得しており、改修費などの補助申請をする。



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鞆港埋め立て・架橋計画 事業凍結/県議会で正式表明  '03/9/23

福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画で広島県は二十二日、事業凍結を正式に表明した。埋め立て免許申請に必要な100%の排水権同意が得られていない事態を受け、県空港港湾局の佐藤孝夫局長が「免許申請は情勢が変化するまで見合わせる」と県議会一般質問の答弁で言明した。

 佐藤局長は「歴史的町並みの景観や文化財の保存にも十分配慮した計画。生活環境の向上や観光開発のために必要な事業だが、円滑実施には地元の合意形成が不可欠だ」と説明。事業着手の前提となる埋め立て免許申請について、完全同意が得られる状況となるまで凍結する判断を示した。

 この方針に対し、門田峻徳氏(自民議員会・福山沼隈)は「県として主体的にできることは、何もないということか」と再質問した。

 土木建築部の吉野清文部長は「道路、埋め立て事業の一部は県事業だが、目的は鞆地区のまちづくりをどうするかということ」と強調。「今後、この事業をどのようにするかは、福山市の考え方を聞いた上で対応したい」と理解を求めた。

 計画では、鞆港の西側約二ヘクタールを埋め立て、東側に長さ約百八十メートルの橋を建設する予定だった。県は市側の要請を受けて二十年前から計画を進めてきたが、今も公有水面埋立法に基づいて県への埋め立て免許申請に必要な100%の排水権同意が得られていない。



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鞆の町並み保存事業、福山市が執行凍結 '03/4/19

 福山市が、鞆町の伝統的な町並み保存のため、五年前から独自に取り組んでいる「鞆地区町並み保存事業」予算の凍結を決めたことが十八日、分かった。一体的整備を目指す港の埋め立て・架橋計画が進まないため。市は「七月に結論を出すまで続ける」としている。

 市は、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)選定までの措置として、一九九八年度から五年間、毎年二千五百万円ずつ同事業の予算を編成。これまで計二十七軒の伝統的な家屋の改修工事などに充ててきた。

 本年度の当初予算は二千万円に減額した。今回の凍結で、日々傷む町並みの保存が図れなくなる。住民の間には、埋め立て・架橋反対派への「圧力」との見方もある。市教委文化課は「埋め立て・架橋が実現すれば速やかに執行する。だが、実現しない場合は不透明。予算から落とす可能性もある」と説明する。

 埋め立て・架橋計画は八三年の策定以来、進んでいない。実現のためには、100%の地元同意が必要だが、民家の生活排水を海へ流す権利の放棄について、四件の同意が得られていない。

 三好章市長は「七月をめどに、計画の中止か推進かの結論を出す」として、反対派住民への説得を本格化。「町並み保存と埋め立て・架橋は切り離せない。残りすべての同意を取り付けるよう努める」と話している。

 ■架橋実現へ圧力か 反対派住民ら反発

 国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)選定までの「つなぎ」として、福山市が続けてきた「鞆地区町並み保存事業」が凍結された。「重伝建と港の埋め立て・架橋計画はセット」という市側は「架橋のめどが立たない現状を踏まえた結果」と説明するが、町並み保存を望む住民からは「反対派への無言の圧力」と批判を強めている。

 「鞆地区町並み保存事業」は五年前から、市が独自に予算化。これまでに二十七軒の家屋の修復工事に充て、本年度も二千万円の予算を組んだ。

 しかし埋め立て・架橋計画の必須要件である地元同意取り付けがうまくいかないため、市は予算の凍結を決定。十六日にあった地元の町内会連絡協議会(町連協、二十三町内会)の定例会で「予算執行を当面見送る」と告げた。

 三好章市長は「保存事業は、埋め立て・架橋計画と一体のものだ。計画がまとまらない以上、保存だけを進めるつもりはない」と強調。町連協での説明に立った市教委文化課の小林実課長も「市の方針には、大方の会長から賛同を得たとの感触を得ている」と話し、「圧力」との見方を否定する。

 住民グループ「鞆まちづくり工房」の岡本純夫さん(52)は「埋め立て・架橋問題に結び付けて、町並み保存の予算を凍結するとは言語道断。運用を間違えている」といぶかる。

 鞆で三百年余り続く船具店の十五代目、澤村猪兵衛さん(68)も「反対派住民にプレッシャーをかけるようなもの。一種の暴挙だ」と指摘する。

 一方、架橋推進派の町連協の松岡茂会長(70)は「町並みが傷むとはいえ、市が埋め立て・架橋計画の方向性を出す七月末まで待つのは仕方ない」と、静観の構えだ。

 七月までには「一定の結論を出す」(三好市長)としている鞆の架橋・埋め立て問題。重伝建選定とのリンクを強調する市側と、それを否定する反対派の溝が、予算凍結によって、さらに深まる可能性もある。



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鞆の浦を視察 米の世界文化遺産財団 '02/5/30

 米ニューヨークの世界文化遺産財団のスタッフが二十九日、危機にひんしている人類遺産「ワールド・モニュメント・ウオッチ(WMW)」に選定した福山市の「鞆の浦」を視察した。広島県と市が進める鞆港埋め立て・架橋計画を踏まえ、「鞆の魅力的で貴重な環境を壊さないでほしい」と、市に訴えた。

 世界文化遺産財団の上級副代表ヘンリー・ング氏(48)とプログラム部門副代表のジョン・スタッブス氏(52)。二十八、二十九の両日、鞆港や近世の町並みを見て回った。

 市社会教育部の赤沢収部長に面会し「美しく、貴重な鞆の環境は国際的にもユニークで感動した。各国の例をみても、自然や歴史の環境を守ることは非常に難しい」と意見。「鞆のために、市に技術的、金銭的な協力がしたい」と申し出た。鞆港の計画について赤沢部長は「生活基盤の整備が必要で、長年にわたり地元と協議してきた」と推進の方針を説明した。

 財団は文化、歴史遺産の保全に取り組む草分け的団体で、スポンサーは米国のカード会社アメリカンエキスプレス。WMWは遺産保全に向けた注意喚起が狙い。鞆の浦は、二〇〇二年版のリストに「埋め立て・架橋計画により、町並みや水辺の歴史と文化が脅かされている」と選んだ。

 ▽「保存へ行政と連携」

 危機にひんする人類遺産「ワールド・モニュメント・ウオッチ(WMW)」に福山市の「鞆の浦」を選んだ世界文化遺産財団から現地視察に訪れた上級副代表ヘンリー・ング氏とプログラム部門副代表ジョン・スタッブス氏に、印象と意見を聞いた。

 ―鞆の浦の印象は。

 スタッブス氏 財団は民間の非営利団体で一九六四年から七十八カ国で歴史的遺産の保全に向けた活動をしてきた。その中で見てきた欧州やアジアの港町の中でも、鞆は特別。水辺と陸の関係がしっかり残っている。

 ング氏 通常は自然、歴史的建造物、コミュニティーのどれかだけが残っているが、鞆はすべてが一体となって残っている点が素晴らしい。

 ―鞆港埋め立て・架橋計画をどうみますか。

 スタッブス氏 検討し直すべきだ。その方が鞆にとって利益が大きい。世界各地で港の近代化で多くものを失って後悔し、その後に水際と陸地の関係を取り戻そうと多額の資金をつぎこむケースが多々ある。現在の水際をしっかり活用すべきだ。計画変更は大変で勇気がいるが、常に生じる問題。ただ、最終的には地元の行政の問題だ。

 ―今後のかかわり方は。

 スタッブス氏 行政と対立するのが目的ではない。鞆の重要性を明らかにし、何らかの手助けをしたい。専門家の派遣や、建物保存の資金援助の交渉など、何ができるかを検討し、行政とも連携して、協力したい。

【写真説明】医王寺(福山市鞆町)から鞆の全景を見渡すング氏(右)とスタッブス氏(左)


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鞆架橋事業 新年度着工は困難 '02/3/30

 福山市鞆町で広島県と市が進めている鞆港埋め立て・架橋事業は二十九日、新年度中の着工が極めて困難な見通しとなった。地元すべての同意が得られず、国土交通省が発表した公共事業の配分に、補助事業として盛り込まれなかったため。

 事業は鞆港の西側を約二ヘクタール埋め立てるとともに東側に橋を架け、江戸時代からの町並みをう回する県道鞆松永線バイパスを整備する計画。中国地方整備局は新年度予算の公共事業の補助事業枠に、鞆港埋め立て架橋事業分の一億円を要求していたが見送られた。

 同整備局港湾空港部は「公共事業が削減される中で、新規事業の着手が困難になっている。鞆港の計画は地元同意がそろっておらず、熟度が十分でない、と本省が判断したのではないか」と説明。埋め立て免許申請に必要な地元同意の取り付けは約八割にとどまっているのが実情で、県と市は目標としていた本年度中の免許申請は断念した。

 県は100%の同意取得を事業着手の条件としている。県空港港湾局の須野原豊局長は「今後も地元同意を得る作業を継続する。国の補助事業ではなく、単独事業で着工する選択肢もある」と話している。


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福山市鞆町、全国ゼミ開催へ準備会発足 '02/1/30

 江戸時代からの町並みが残る福山市鞆町で二十八日夜、歴史的遺産を生かしたまちづくりをテーマにした「全国町並みゼミ鞆大会」の九月開催に向けた準備会が発足した=写真。賛否が分かれる広島県、市の鞆港埋め立て・架橋計画とは切り離して「町並み保存」に焦点を絞り、参加を呼び掛けることを申し合わせた。

 町並みゼミは、町並み保存団体などでつくる全国町並み保存連盟と地元の実行委が主催。年一回、住民、行政、専門家ら数百人が、遺産の活用、産業の活性化、観光など幅広い議論をしてきた。国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を目指している鞆地区のまちづくりについて考えようと、住民たちが二十五回目の大会を誘致した。

 鞆公民館であった準備会には、住民や近郊の鞆ファン、学識経験者ら約五十人が参加した。

 ゼミ開催は九月二十〜二十二日。準備会はゼミのボランティアスタッフを募っている。問い合わせは事務局岡本さん、電話0849(70)5374。


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鞆港埋め立て事業、隣接町内会が反対表明 '01/11/29

 広島県と福山市が来秋の着工を目指す同市鞆町の鞆港埋め立て・架橋事業に対し、埋め立て予定地に隣接する江元一町内会(五十七世帯)は二十八日、三好章市長に計画の白紙撤回を文書で求めた。江元一は、鞆町にある二十三町内会の一つで、町内会単位で事業反対の意向を正式表明したのは初めて。

 土佐日出雄会長(69)ら町内会の六人が市役所を訪れ、「先人から受け継いだ歴史的環境は、日々の生活環境と一体で、かけがえのない大切なもの」と、住民の暮らしと景観を守る観点から計画の白紙撤回を求める要望書を提出。同町内会を中心に集めた百二十人分の署名も添えた。

 江元一町内会は、今年八月の町内全体説明会の前に個別説明会を開くよう県や市に要望したが、受け入れられなかった。土佐会長は市長に対し、「トンネルなど、埋め立て・架橋とは異なる方法を検討し、私たちの港を、国の重要伝統的建造物群保存地区の指定を目指す町並みとともに残してほしい」と訴えた。

 三好市長は「地元への説明が後になったことは誠に申し訳なかった。まず説明させてほしい」と話した。さらに「いろいろな案を検討して現在の計画となった」と述べ、現行計画での事業着手に理解を求めた。

 町内会側は、県福山地域事務所も訪れ、藤田雄山知事あての同様の要望書を提出した。

【写真説明】三好市長(手前左)に計画の白紙撤回を求める要望書と署名を手渡す土佐会長


産経新聞 2001/08/14

鞆港埋め立て架橋計画
地元町内会が抗議文
  知事らに「説明会で質問無視」

 福山市鞆町の鞆港の埋め立て架橋計画で、今月八日に行われた全体説明会で質問が受け入れられず、以前から要請していた町内会への説明会もされていないとして、埋め立て計画地区付近の住民らで構成する元町一町内会(土佐日出雄会長、五十五軒)は十三日まで に、県知事や福山市長などに抗議文を郵送した。
 ほかの送付先は、鞆町内会連絡協議会長と県福山地域事務所長。抗議文などによると、今年五月から鞆町連協や市、県福山地域事務所に、鞆港埋め立てと架橋に関する同町内会への説明会を全体説明会の前に開催するよう□頭や要望書などで再三にわたって申し入れたが、聞き入れられなかった。
 また、全体説明会で説明が始まる前に、なぜ同町内会への説明会が遅れたのか質問したが、無視されたという。
 こうしたことから、同町内会では埋め立て計画に同意しない立場を取り、県や市、鞆町連協などに対して抗議文を提出した。

中國新聞 2001/08/08(http://www.chugoku-np.co.jp/)

福山市の鞆架橋、申請を半年間先送り 地元に反対意見

 福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画で、事業主体の広島県と福山市は七日、地元の同意取り付けが難航し、目標としていた八月中の埋め立て免許申請が難しいことを明らかにした。このため、計画を約半年間先送りし、来年一月までの埋め立て免許申請、二〇〇二年度中の着工を目指す。
 事業は、鞆港西側の約二ヘクタールを埋め立てるとともに東側に長さ百七十九メートルの橋を架け、昔ながらの町並みをう回する県道鞆松永線バイパスを整備する計画。昨年二月、県福山港地方港湾審議会が現行計画を承認。県と市は来年春の着工を目指し、埋め立て免許の申請準備を進めてきた。
 しかし、地元には「景観が損なわれる」「埋め立て後背地の水はけが悪くなる」などの反対意見があり、申請に必要な海岸線付近の住民の同意取り付けは難航している。
 造船業者や排水管を利用する世帯など、鞆港の水際線を利用する関係者二十余人のうち三分の一の同意が得られていない。また埋め立て面積を確定するには現在の海陸境界についての同意が必要だが、関係する約四十筆の地権者らのうち四分の一の同意も得られていない。
 さらに、埋め立て予定地に隣接する江ノ浦元町一町内会は「説明を受けておらず、計画に同意できない」と個別説明会を求めている。県と市は町全体の説明会を八日に実施した後、同町内会など関係地区への個別説明会を開く予定。
 計画の総事業費は五十五億円。県は二〇〇二年度着工に向け国に予算要望しており、県港湾企画整備室は「来年一月までの埋め立て免許申請が来年度の予算獲得のタイムリミット。すべての同意を得て、早期着工を目指したい」としている。


中國新聞 2001/05/01の記事です。

鞆架橋、8月までに申請/広島県・福山市

 福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画で、事業主体の広島県と福山市は三十日までに、埋め立てに必要な免許申請を八月までに行う方針を固めた。地元同意の取り付けに難航したため、本年度中の着工を断念し、来年度中の着工を目指す方針に切り替えた。しかし地元には反対の意向もなお強く、さらにずれ込む可能性もある。道路整備か景観保全かで地元を二分してきた事業は、大詰めの段階を迎えた。
 計画は、鞆港の西側二ヘクタールを埋め立てるとともに、東側には長さ百七十五メートルの橋を架け、県道バイパスを整備する。
 昨年二月、県福山港地方港湾審議会が埋め立て面積を縮小した現行計画を承認。県と福山市は今年三月までに県知事あてに埋め立て免許を申請し、本年度中の着工を予定していた。
 しかし、免許申請には、鞆港の水際線を使用する地元関係者の同意が必要。造船などの業者や家庭の排水管の利用者ら関係者は二十余人いて、うち約半数の同意が得られていない。
 中には「窓から眺める海の景色は何物にも変えがたく、同意するつもりはない」と言い切る利用者もいる。
 埋め立て免許を取得するには、申請後に事業計画書類の住民縦覧や福山市議会での同意議決などの手続きが欠かせない。
 また、来年度に着工するには国や県、市の予算計上も必要で、県と市は住民同意取り付けのめどを「今夏」とし、引き続き未同意の住民への説明、説得を急ぐ方針。
 県港湾企画整備室の清水春生室長は「地元同意が基本。八月下旬の埋め立て免許申請を目指し、粘り強く合意形成を図っていきたい」と話す。福山市の三好章市長も「地元の同意を得て一日も早く事業着手にこぎ付けたい」としている。

 
中国新聞 2000年3月6日
鞆港は貴重な土木遺産
福山でシンポ 伊東日大教授が報告

 鞆港は瀬戸内地域で最も土木的な遺産価値が高い−。福山市鞆町の鞆港に残る中世の港湾施設について、初の学術調査をしている日本大理工学部交通土木工学科の伊東学教授は 5日、市鞆町の鞆公民館であった公開シンポジウム「失われゆく港湾都市の原像―鞆の浦の歴史的価値をめぐって」で、土木史の観点から研究成果を報告した。
 伊東教授は昨年8月から、大学の都市環境計画研究室の学生や鞆町の住民とともに現地調査を実施。潮の満ち干が激しい瀬戸内梅で発達している「雁木(がんぎ)」(石を階段状に並べた船着き場)を中心に測量などした。鞆を含む山口県から兵庫県までの瀬戸内地域の北前船の寄港地10港と雁木が多く残っている2港の計12港で、比較分析もした。
 伊東教授によれば、江戸時代の雁木が現存している港は、鞆と御手洗(豊田郡豊町)の2港があるが、鞆は延長計110bと規模が10倍以上で状態も良く、唯一、港の形状が円弧型。雁木に加えて、灯台の役割をした「常夜灯」、「波止場」、江戸時代の船の修理場の「焚場(たでば)」、「船番所」の港湾施設が5点セットで残っているのは、全国的にも珍しいという。
 伊東教授は「鞆港は大変美しい土木遺産である上、生活の中で今でも利用されている貴重な港。世界遺産を目指して、調査面で協力していきたい」と力を込めて話した。
シンポは、芸備地方史研究会(会長・渡辺則文広島大名誉教授、5百人)が主催し、住民ら約120人が参加。伊東教授のほか、鞆の町並みを調べた市教委調査団の広島大文学部の三浦正幸教授(建築史)や同大教育学部の中山富広助教授(近世史)も最新の研究結果を発表し、港と町の両面から鞆の価値を考えた。


中国新聞 2000年2月19日

中国論壇 ==長谷川博史==

<著者略歴>
1965年、松山市生まれ。94年広島大学大学院文学研究科博士課程後期終了。文学博士。94年から現職。福山市教委編『鞆の浦の歴史―福山市鞆町の伝統的町並に関する調査研究報告書T―』を分担執筆
鞆の浦の価値と可能性
歴史の厚みを再認識せよ

 2月5日の一連の報道に接して「鞆の浦に橋が架かることは決まった」との思いを強くした人は多いであろう。実際、鞆地区道路・港湾計画(鞆港埋め立て・架橋計画)は福山港地方港湾審議会からの答申を受けて、事業着手へ向けた歩調を一挙に速めた。その課程において、反対派住民の意見は無視されたと聞く。私たちは、私たちの生きている時代に何がなされようとしているのか、その意味を冷静に見つめ直さなければならない。
 二十世紀後半の歴史学界をリードしたF・ブローデルは、大著 『地中海』 において、都市を「発動機」にたとえた。「地中海のどんな歴史もどんな文明もすべて都市がつくり出した」ことを鋭く見破った。そして、歴史は「海」から見なければ理解できないことを、膨大な具体的事実をもって語らしめた。
 「海」に面した都市=港湾都市は、歴史や文明そのものを体現する場である。とりわけ周りを海に囲まれた日本列島にあっては、幾多の港湾都市は「顔」であり「窓」であり「発動機」であった。ところが、日本列島の港湾都市が具体的にどのような姿をしていたのか、今となってはほとんど知る術がないのである。高度成長期の大規模事業が、日本列島の水際をコンクリートの岸壁で覆い隠し、港湾都市本来の姿を粉砕していったからである。それは、列島固有の歴史性・文化性が覆い隠されたことをも意味している。
 そのような中にあって、鞆の浦は、江戸時代以来の町並みと港湾施設を今に伝えている。江戸期にさかのぼる建物がこれだけ多数現存している港町などどこにもないし、街路や海岸線が江戸時代前期の形をほとんど引き継いでいることは驚きに値する。
 いわゆる5点セット(波止場・雁木・常夜燈・焚場。船番所)がそろった港湾施設は、その規模からみても他に例がない。 のみならず、古代以来一貫した要港としての歴史を有し、限られた面積にすぐれた史跡と文化財が密集する鞆の浦の価値は、何点セットであるのかわからないほどの厚みを持っている。
 鞆の浦が現在の姿を保ったことは、さまざまな偶然や努力の積み重ねによって生み出された「奇跡」と言ってよい。その価値が周知のものとなり、町並みの補修・整備が行われたならば「世界遺産」に登録されても一向に 不思議ではない。
 埋め立て・架橋計画は、そのような鞆の浦の価値と可能性に致命傷を与えるものである。なぜ、そのような計画を、まるで唯一の選択肢であるかのように、また何かに追われるかのように、県・市・地元が一致して推し進めようとするのであろうか。一体、住民の不安を取り除くどんな努力が行政によってなされたと言えるのか。防災の問題、渋滞の問題、港の汚染の問題。それらをすべて埋め立て・架橋計画になげうって、放置してきたのではないか。橋が架かることによる住民の不安について、どこまで思いを致すことがあったのか。間違っているのは「埋め立て・架橋」を望む住民ではない。計画そのものであり、その進められ方である。
 現在の福山市は、鞆町の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)指定に向けた準備を進めつつある。しかし、「埋め立て・架橋」付きの重伝建は、鞆の浦の歴史と固有性を誤解した重伝建である。海岸の駐車場からエンジンの爆音が響き渡る中途半端な美観地区を作るのか、世界からも注目される列島文化の「発動機」となるのか、今はその岐路に立たされていると考えられる。これは、決して地元住民だけの問題ではない。
 私たちは、風土・生活・習慣・人間関係が歴史の中に培われてきたものであることを、もっと深く認識すべきでである。自らの住む場所や地域共有の「価値」、すなわち自らの力で発信でき、次の世代へ伝えてゆける独自な資源が何であるかを認識すべきである。高度成長期と同じ発想と手法を繰り返すのは「時代錯誤」以外の何ものでもない。今なら、まだ引き返せる。

(広島大学文学部助手・日本中世史)

中国新聞 2000年2月13日

フォーラム中国  ==視角2000==

保存前提に解決策を探ろう

◆ 鞆の浦を世界遺産に ◆ 

 福山市の鞆の浦を訪れると、港が一望できる医王寺に行く。弓形に開いた鞆港のたたずまいは、いつ見ても心に染み入る。格子戸と白壁の土蔵が残る町並みを歩くと、港町独特の風情が漂う。鞆の浦は江戸時代以来の港と町並みが現存する国内でも唯一の地域だ。世界遺産に値する人類の遺産なのである。宮島や原爆ドームに続く世界遺産登録の運動を呼びかけたい。
(解説委員 桝田勲)
 今月4日、鞆港の埋め立て架橋計画が広島県福山港地方港湾審議会で承認された。つまり、ゴーサインが出たということである。埋め立て架橋計画がスタートしてから、もう17年になる。生活道路を確保したい推進派。歴史的な景観の保存を訴える反対派。町をよくしたいと思う気持ちは同じである。その課程を眺めてみると、最初からボタンを掛け違えているように思えてならない。


 鞆地区の町づくりの指針になる「マスタープラン」は、埋め立て架橋が前提である。これが、文化遺産の保存を前提にした計画であったなら、展開はまったく違っていただろう。
 現在の住民が、交通渋滞や火事の不安、高齢化、過疎化の悩みを抱えているのはよく分かる。それも保存を前提にすれば、解決策はある。
 たとえば、交通渋滞は山側に道路を通せば済む問題だ。世界遺産に値する鞆港を埋め立てて橋を架ければ、観光地としての価値は台無しになる。鞆は観光でしか生きる道はない。ならば観光資源である文化遺産を保存するのは、だれが考えても当たり前ではないか。
 瀬戸内海に点在する歴史の港は倉敷市の下津井港をはじめ、山口県上関港、兵庫県室津港などいずれも埋め立てられて昔の面影はない。埋め立てで繁栄したかといえば、いずれもさびれてしまった。
 架橋推進派は1994年、8千人余の計画賛同署名を集め「鞆の8,9割は架橋に賛成だ」と言う。しかし、署名を集めた文面は「鞆港を埋め立てるにしても、港の北側、必要最小限のほんの一部を埋め立てるのみ、架橋にしても、鞆港の風致を損じない、むしろマッチしたものをとの考え・・・・」とある。この内容ならいいか、と多くの住民が賛同署名するだろう。
 鞆の人たち、福山市全体いや広島県、日本、世界の人たちに、鞆のすばらしさをもっともっと知ってほしい。その参考になるのが、最近立ち上がったばかりの「鞆の浦の文化遺産を保存しよう」と題したホームページである。
 「鞆の浦を世界遺産にする会」が製作した。カラー図面や写真も入った「埋め立て架橋計画」や「埋め立て架橋後のイメージ図」「山側トンネル案」など9項目に分けて、鞆の浦を考える材料を提示している。一見に値する。
 アドレスは http://www2.odn.ne.jp/tomonoura


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